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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)1807号 判決 1989年4月20日

原告

北村豊蔵

西村光雄

辰巳行正

西村善四郎

右四名訴訟代理人弁護士

橋本盛三郎

浜田次雄

松浦武二郎

松浦正弘

山下潔

被告

明星自動車株式会社

右代表者代表取締役

橋本等

右訴訟代理人弁護士

小林昭

大戸英樹

南出喜久治

主文

一  被告の昭和六〇年六月二二日の定時株主総会における第二七期(昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日まで)の決算報告書(営業報告書、貸借対照表、損益計算書及び利益剰余金処分案)を承認する旨の決議を取り消す。

二  原告らのその余の請求に係る訴えを却下する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の昭和六〇年六月二二日の定時株主総会における第二七期(昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日まで)の決算報告書(営業報告書、貸借対照表、損益計算書及び利益剰余金処分案)を承認し、並びに橋本等、鈴木勇、澤田留三郎、中西正勝及び大岡馨を取締役に、大橋和男及び小松喬一郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告らの本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告北村豊蔵は株式九二〇〇株、同西村光雄は株式一万三〇八二株、同辰巳行正は株式三二二九株、同西村善四郎は株式四四三株をそれぞれ有する被告の株主である。

2  被告は、昭和六〇年六月二二日京都市左京区一乗寺宮の東町四五番地所在の被告本社三階会議室(以下「本件総会場」という。)で開催された第二七期定時株主総会(以下「本件総会」という。)において、第二七期(昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日まで)の決算報告書(営業報告書、貸借対照表、損益計算書及び利益剰余金処分案)を承認し、並びに橋本等、鈴木勇、澤田留三郎、中西正勝及び大岡馨を取締役に、大橋和男及び小松喬一郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下両決議を併せて「本件決議」という。なお、以下、決算報告書の承認決議のみをいうときは「本件決算報告書承認決議」と、取締役及び監査役の各選任決議のみをいうときは「本件役員選任決議」という。)をした。

3  しかしながら、本件決議には次のような取消事由がある。

(一) 招集手続の法令(商法二三二条一項)違反

被告は、原告西村光雄が本件総会当時株式一万三〇八二株を有する被告の株主であったにもかかわらず、これに対して本件総会の招集通知を発しなかった。

(二) 決議方法の法令違反

(1) 商法二三九条三項違反

訴外石垣末吉は株式七一五株を有する被告の株主であったところ、昭和六〇年四月九日死亡し、訴外石垣一也、同石垣佐登子及び同石垣経雄がこれを相続した。原告北村豊蔵は、昭和六〇年六月二二日右相続人らから本件総会における議決権行使についての代理権を付与され、本件総会当日被告に対し、右代理権を証明する委任状を差し出して右相続人の代理人として議決権を行使する旨告げたところ、被告は、右相続人らは株主の権利を行使すべき者一人を定めていないとしてこれを拒否した。そこで、原告北村豊蔵は、その場で株主の権利を行使すべき者として訴外石垣一也を指定したが、被告はそれでも同原告の代理行使を拒否した。

(2) 商法二三七条ノ三第一項違反

原告辰巳行正、同西村光雄及び同西村善四郎が決算報告書承認の議題に関して説明を求めたところ、被告取締役はこれに対してごく簡単な説明をしただけであったので、原告らが同議題に関して更に説明を求めたところ、被告取締役はこれに応じなかった。

また、原告らが取締役及び監査役各選任の議題に関して説明を求めたところ、被告取締役は全くこれに応じなかった。

(3) 議案の提案を採り上げなかった違法

取締役及び監査役各選任の議題に関して原告北村豊蔵が取締役として同原告、訴外中西正勝、同宮崎政彦、同上野安丕及び同杉原邦彦を、監査役として訴外小松喬一郎及び同松山友明をそれぞれ候補者とすべき旨提案したところ、被告はいずれの提案も採り上げなかった。

(三) 招集手続及び決議方法の著しい不公正

本件総会当日本件総会場がある被告本社の入口付近に原告らに反対する被告の労働組合員二〇名ないし四〇名が集まり、これら組合員は、原告らが被告本社に入る際、及びそこから出る際、原告らに対して暴行ないし威圧を加えて本件総会場への入退場を妨げ、また、本件総会中、被告本社三階の本件総会場の真下付近でマイクロホンを用いてシュプレヒコールを繰り返すなどして本件総会を妨げた。

被告は、本件総会当日被告の労働組合員らが被告本社で右諸行為に出ることを予想しながら、あえて原告らの出席困難な被告本社三階を本件総会場に指定して株主を招集し、また、右喧噪の中これを制止することなく本件総会を強行して本件決議を成立させたものであるから、本件総会の招集手続及び決議方法は著しく不公正なものであったといわなければならない。

4  よって、原告らは被告に対し、商法二四七条一項に基づき、本件決議の取消しを求める。

二  本案前の主張

1  本件役員選任決議取消しの訴えの利益について

本件役員選任決議に基づいて選任された橋本等外四名の取締役並びに大橋和男及び小松喬一郎の監査役は、いずれも任期満了により退任し、これに伴い昭和六二年六月二七日に開催された株主総会において、右橋本等外四名と上野安丕が取締役に、右大橋和男及び小松喬一郎が監査役にそれぞれ選任され、いずれもこれに就任し、その旨同年七月一一日登記された。

したがって、本件役員選任決議は、これを取り消す実益がなくなったので、その取消しを求める本件訴えはその限度で訴えの利益を欠くに至った。

2  本件決算報告書承認決議取消しの訴えの利益について

被告は、株主総会において、本件決算報告書承認決議によって承認された決算報告書の記載内容を前提として次期以降の決算報告書の承認決議をしているので、本件決算報告書承認決議によって承認された決算報告書の記載内容に違法、不当な箇所があることが争点となっている場合や同決議の手続上の瑕疵を特に明確にする必要がある場合とはいえない本件では、すでに同決議を取り消す実益はなくなり、したがって、同決議の取消しを求める本件訴えはその限度で訴えの利益を欠くに至った。

3  原告西村光雄の当事者適格について

原告西村光雄が有すると主張する被告の株式一万三〇八二株は、京都地方裁判所において競売に付され、昭和五三年八月四日訴外エムケイ株式会社(以下「訴外会社」という。)によって競落され、同社に株券が交付されているので、現在同原告は被告の株主ではなく、したがって、同原告の本件訴えは原告適格を欠く不適法なものである。

三  本案前の主張に対する原告らの答弁

1  本案前の主張1のうち、本件訴えはその利益を欠くとの点は争い、その余は認める。

本件総会当時の被告の役員らは、被告の利益を害してでも自己の支配権を確立しようとして、商法所定の手続に違反して本件役員選任決議を強行させて自ら役員に就任し、その後その在任中である昭和六一年八月一六日には、反対派の一部の株主に招集通知を発しないで臨時株主総会を招集して株式会社ジャルファイナンスに対し特に有利な発行価額で新株を発行する旨の決議をさせてこれに対し著しく不公正な方法により新株を発行させるなどしたので、被告の利益を回復させるため、本件役員選任決議を取り消す実益がある。

2  同2のうち、本件訴えはその利益を欠くとの点は争い、その余は認める。

被告は本件決算報告書承認の再決議をしていないので、本件決算報告書承認決議を取り消す実益がある。

3  同3のうち、原告西村光雄が有していた株式一万三〇八二株が京都地方裁判所において競売に付され、昭和五三年八月四日訴外会社によって競落され、同社に株券が交付されたことは認める。

原告西村光雄と被告との間における昭和六一年(オ)第九六五号株主地位確認等請求上告事件(同原告が上告人、被告が被上告人)につき、最高裁判所は、昭和六三年三月一五日「上告人が被上告人の株式一万三〇八二株を有する株主であることを確認する。被上告人は上告人名義の株式一万三〇八二株について上告人が被上告人の株主総会において株主としての権利を行使することを妨害してはならない。」との判決を言い渡した。

原告らは、本訴において右確定判決の既判力を援用する。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告西村光雄が株式一万三〇八二株を有する被告の株主であることは否認し、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3(一)の事実中、原告西村光雄が本件総会当時株式一万三〇八二株を有する被告の株主であったことは否認し、その余は認める。

(二)  同3(二)(1)の事実中、訴外石垣一也、同石垣佐登子及び同石垣経雄が原告北村豊蔵に対し、本件総会における議決権行使についての代理権を付与したことは知らず、その余は認める。仮に、原告北村豊蔵に右代理権が付与されていたとしても、その代理権には共有株式につき株主の権利を行使すべき者一人を定める権限は含まれていないから、同原告が訴外石垣一也を株主の権利を行使すべき者として指定しても、その指定は無効である。

同3(二)(2)の事実中、本件各議題につき質問・説明があったことは認めるが、その余は否認する。被告は、本件各議題に関して株主に十分な説明をしている。

同3(二)(3)の事実は認める。被告は、原告北村豊蔵の提案につき商法二三二条ノ二第二項所定の手続がなされていなかったのでこれを却下したが、これを原案に対する修正動議として扱いその決をとっているので、右提案を採り上げなかったとしても違法でない。

(三)  同3(三)の事実中、本件総会当日被告本社付近に被告の労働組合員らがいたこと及び右組合員らが本件総会中にマイクロホンを用いてシュプレヒコールを行ったことは認め、その余は否認する。本件総会中、本件総会場に右組合員らのシュプレヒコールが時々聞こえることがあったが、それは本件総会の議事進行に支障を与えるものではなかった。

五  抗弁(裁量棄却)

仮に、本件決議に原告ら主張のような取消事由があったとしても、本訴請求は、次のような事情があるので、裁判所の裁量により棄却されるべきである。

1  招集手続の法令(商法二三二条一項)違反について

被告が原告西村光雄に対して本件総会の招集通知を発しなかったのは、同原告が有していた被告の株式一万三〇八二株がすでに競売によって訴外会社に譲渡されていたので、同原告を被告の株主として取り扱う必要はないと考えたからであって、同原告を被告の株主として取り扱う義務があることを知りつつことさらにこれに対して招集通知を発しなかったというわけではない。

また、原告西村光雄は仮処分決定を得て本件総会に出席して議決権を行使しているのであるから、これに対して招集通知を発しなかった瑕疵は本件決議に影響を及ぼすものではなかった。

2  決議方法の法令違反について

(一) 商法二三九条三項違反について

原告北村豊蔵が代理行使しようとして被告がこれを拒否した訴外石垣一也らの共有株式七一五株は、被告の本件総会当時の発行済株式総数の中のごく一部であって、しかも本件決議では、右七一五株につき同原告に議決権の代理行使を認めたとしても(そして、その議決権が賛否いずれに行使されたとしても)、その成立内容に影響を及ぼすものではなかった。

(二) 商法二三七条ノ三第一項違反について

被告取締役が具体的数字に関する事項以外の事項については十分に説明したことは、前記のとおりであり、予め調査を要する具体的数字に関する事項については、原告らは被告に対し、説明を求める事項を事前に通知しないで本件総会で説明を求めてきたのであるから、被告取締役がこれに対して十分な説明をすることができなかったとしてもやむを得ないものというべきである。

(三) 議案の提案を採り上げなかった違法について

被告は、原告北村豊蔵の提案を却下したが、これを原案に対する修正動議として扱いその決をとっているので、同原告の提案を採り上げなかった瑕疵は本件決議に影響を及ぼすものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一本案前の主張について

1  本件役員選任決議取消しの訴えの利益について

本案前の主張1のうち、本件役員選任決議に基づいて選任された橋本等外四名の取締役並びに大橋和男及び小松喬一郎の監査役がいずれも任期満了により退任し、これに伴い昭和六二年六月二七日に開催された株主総会において右橋本等外四名と上野安丕が取締役に、右大橋和男及び小松喬一郎が監査役にそれぞれ選任されていずれもこれに就任し、その旨同年七月一一日登記されたことは、当事者間に争いがない。

ところで、役員選任の株主総会決議取消しの訴えの係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会決議によって取締役ら役員が新たに選任されたときは、特別の事情のない限り、右決議取消しの訴えは、訴えの利益を欠くに至るものと解すべきであるところ(最高裁判所昭和四五年四月二日第一小法廷判決民集二四巻四号二二三頁参照)、原告らは、右特別の事情として、本件総会当時の被告の役員らが、被告の利益を害してでも自己の支配権を確立しようとして、商法所定の手続に違反して本件役員選任決議を強行させて自ら役員に就任し、その後その在任中である昭和六一年八月一六日には、反対派の一部の株主に招集通知を発しないで臨時株主総会を招集して株式会社ジャルファイナンスに対し特に有利な発行価額で新株を発行する旨の決議をさせてこれに対し著しく不公正な方法により新株を発行させるなどした旨主張する。しかし、右にいう特別の事情とは、取消しを求めている株主総会の決議に基づいて選任された取締役ら役員の在任中の行為による法律関係を処理し、右行為によって会社の蒙った損害を回復するためには、株主総会決議取消判決の有する遡及的形成力を利用する必要と利益があるという事情をいうと解されるところ、原告らの主張する事情は、いずれも本件役員選任決議を取り消して選任された役員の地位を遡って喪失させなければ被告自体の利益をはかることができないと認められる事情ということはできない。けだし、被告における役員の支配権の確立を目的として本件役員選任決議を強行させたと主張する点については、本件役員選任決議に基づいて選任された役員すべてが退任し、その後の株主総会の決議によって新たに役員が選任されたことで、すでに解決ずみの事柄に属するものということができるし、また、同様の目的で株式会社ジャルファイナンスに対し著しく不公正な方法により新株を発行させたと主張する点については、本件役員選任決議を取り消して選任された役員の地位を遡って喪失させても、これにより何らの解決をももたらすものではないからである。

してみれば、原告らの本件訴えのうち、本件役員選任決議の取消請求に係る部分は、昭和六二年六月二七日に開催された被告株主総会において新たに役員が選任されたことにより、訴えの利益を欠くに至ったものというべきである。

2  本件決算報告書承認決議取消しの訴えの利益について

本案前の主張2のうち、被告が株主総会において本件決算報告書承認決議によって承認された決算報告書の記載内容を前提として次期以降の決算報告書の承認決議をしていることは、当事者間に争いがない。

ところで、被告が株主総会において右のとおり次期以降の決算報告書の承認決議をしているとしても、本件決算報告書承認決議が取り消されれば、同決議は既往に遡って無効となり、本件決算報告書は未確定となるから、それを前提とする次期以降の決算報告書の記載内容も不確定なものになると解さざるを得ず、したがって、被告としては、あらためて取り消された期の本件決算報告書の承認決議を行わなければならないことになるから、結局、被告が右のとおり次期以降の決算報告書の承認決議をしているとしても、本件決算報告書につきあらためて承認の決議がされたなどの特別の事情がない限り、本件決算報告書の承認決議取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である(最高裁判所昭和五八年六月七日第三小法廷判決民集三七巻五号五一七頁参照)。そして、この理は、たとえ本件決算報告書の記載内容に違法、不当な箇所があることが争点となっておらず、また、本件決算報告書承認決議の手続上の瑕疵を特に明確にする必要があるとはいえない場合であっても、なんら異なるところはないものというべきである。

しかるに本件において被告は、本件決算報告書につきあらためて承認の決議がされたなどの特別の事情を主張し立証していないので、本件決算報告書の承認決議取消しを求める訴えはその利益を欠くに至っていないというべきである。

3  原告西村光雄の当事者適格について

そこで次に、本件決算報告書の承認決議取消しの訴えにつき原告西村光雄に当事者適格があるか否かにつき検討する。

被告は、原告西村光雄が有していた被告の株式一万三〇八二株は昭和五三年八月四日競売によって訴外会社に移転したので現在同原告は被告の株主ではなく、したがって、同原告の本件訴えは原告適格を欠く不適法なものであると主張する。

しかしながら、右当事者間には、原告西村光雄が被告の株式一万三〇八二株を有する株主であることを確認する旨の最高裁判所昭和六一年(オ)第九六五号事件確定判決が存在するので、当裁判所は、右確定判決によって確認された法律関係が同事件の事実審の口頭弁論終結時(昭和六一年五月七日)に存在するものとして被告の本案前の主張を判断しなければならないところ、右事実審の口頭弁論終結時後に同原告の有する被告の株式一万三〇八二株が他に譲渡された旨の主張のない本件では、同原告は現在被告の株主であると認められ、したがって、同原告の本件訴えは適法であるというべきである。

二請求原因1の事実中、原告北村豊蔵が株式九二〇〇株、同辰巳行正が株式三二二九株及び同西村善四郎が株式四四三株をそれぞれ有する被告の株主であることは、当事者間に争いがない。原告西村光雄が株式一万三〇八二株を有する被告の株主であることは、右第一項3で述べたとおりである。

同2の事実は、当事者間に争いがない。

三同3(一)の事実中、被告が原告西村光雄に対して本件総会の招集通知を発しなかったことは、当事者間に争いがない。

そこで、原告西村光雄が本件総会当時株式一万三〇八二株を有する被告の株主であったか否かについて判断する。<証拠>によれば、同原告はかつて株式一万三〇八二株を有する被告の株主であったこと、ところが、右株式は京都地方裁判所において競売に付され、昭和五三年八月四日訴外会社によって競落されて同社に株券が交付されたこと、しかし、被告の定款には株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めがあるところ、訴外会社は競落による株式の取得につき被告に対し商法二〇四条ノ五所定の承認の請求をしていないため、被告の株主名簿には現在も同原告が株式一万三〇八二株を有する株主として記載されていることが認められる。ところで、商法二〇四条一項但書に基づき定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の譲渡制限の定めが置かれている場合において、譲渡が競売によってなされ、競落人が未だ会社に商法二〇四条ノ五所定の承認の請求をしていない間は、その譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから(最高裁判所昭和六一年(オ)第九六五号同六三年三月一五日第三小法廷判決・成立に争いのない甲第一七号証参照)、原告西村光雄は、本件総会当時被告に対し自己が株式一万三〇八二株を有する被告の株主であることを主張することができ、また、被告も同原告を株主として取り扱う義務があったものというべきである。

以上によれば、被告は、本件総会当時原告西村光雄を被告の株式一万三〇八二株を有する株主として取り扱い、これに対して本件総会の招集通知を発すべき義務がありながらこれを怠ったものということができ、しかも、<証拠>によれば、被告の本件総会当時の発行済株式総数は八万株であったが、うち一万株については新株発行差止めの仮処分がなされていたと認められるから、残り七万株の五分の一弱にあたる一万三〇八二株を有する同原告に招集通知を発しなかった瑕疵は重大であるといわなければならない。

ところで、被告は抗弁1において、原告西村光雄に招集通知を発しなかったのは同原告が有していた被告の株式一万三〇八二株がすでに競売によって訴外会社に譲渡されていたので、同原告を株主として取り扱う必要がないと考えたからであって、ことさらに同原告に招集通知を発しなかったわけではないこと、及び同原告は株主権行使を妨害してはならない旨の仮処分決定を得て本件総会に出席して議決権を行使しているので、同原告に招集通知を発しなかったとしても本件決議に影響を及ぼすものではなかったことを理由に、本訴請求を裁量棄却すべきであると主張する。

しかしながら、商法二五一条は、裁判所が株主総会決議取消請求を裁量棄却しうる場合を、瑕疵が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない場合に限定している。したがって、株主総会招集の手続に重大な瑕疵がある場合には、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるようなときでも、裁判所は、株主総会決議取消請求を棄却することは許されないのである。けだし、株主総会招集の手続に重大な瑕疵がある場合にまで、単にその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないとの理由のみをもって、決議取消しの請求を棄却し、その決議をなお有効なものとして存続せしめることは、株主総会招集の手続(またはその決議の方法)を厳格に規制して株主総会の適正な運営を確保し、もって、株主及び会社の利益を保護しようとしている商法の規定の趣旨を没却することになるからである(最高裁判所昭和四六年三月一八日第一小法廷判決民集二五巻二号一八三頁参照)。そうであるのみならず、本件の場合は、原告西村光雄が被告主張の仮処分決定を得て本件総会に出席し議決権を行使したといっても、<証拠>によれば、原告西村光雄が右仮処分決定を得たのは、本件総会の日の三日前である昭和六〇年六月一九日のことであり、また、本件決議は、賛成三万五六四七株、反対三万三六三八株という比較的僅差をもってなされたことが認められるのであり、もし原告西村光雄に対して法定の期間をおいて株主総会招集の通知がなされていたとするならば、同原告としては、会日までの間に多数派工作をするなり、十分な準備をしたうえ総会で発言して他の株主の譲決権の行使に影響を及ぼしたりして、決議の結果に影響を及ぼし得たかも知れないのであって、少なくとも決議の結果に影響を及ぼさないことが明白であるとは断じ得ない。

したがって、被告の抗弁1は理由がない。

四以上の次第であるから、原告らの本件訴えのうち、決算報告書の承認決議取消請求に係る部分は、その余の取消事由について判断するまでもなく、理由があり、その余の請求に係る部分は訴えの利益を欠くというべきである。

よって、原告らの本件訴えのうち、決算報告書の承認決議取消請求に係る部分を認容し、その余の請求に係る部分を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官井正明 裁判官飯塚圭一)

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